吸血鬼「あら、貴方も私と同じなのね……」
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前編はこちらから
#4日目#
女「……どうですか?」
魔女「うん。あっさりまとまってて良いわね。鹿肉特有の臭みがうまく消えてる」
女「やった!」
魔女「肉厚のステーキをこんなに上手く焼く初心者、初めてみたわ……アンタ、才能あるよ」
女「……!!」
吸血鬼「あら、私の教育の結果よ? そっちは褒めないのかしら?」
魔女「はいはい」
その晩。
吸血鬼「ここが貴方の部屋。備品は好きにしていいわよ」
女「ありがとうございます!」
深夜。
吸血鬼#「明日決行するのだけれど。準備できているわね?」
吸血鬼「ええ」
吸血鬼#「目標の銀行は鏡面が多い。もう一度見取り図を確認しなさい」
吸血鬼「分かっている。『隣の世界のわたし』よ……私たちは一心同体なのだから」
唯一の不安は、当日にヴァンパイアハンターが介入してこないかということだった。
常に情報とは漏えいしていると思った方がいい。
そのくらい慎重なほうが……。
#●日目#
銀行。
覆面姿で銃を持った4人組が、勢いよく正面玄関から侵入する。
阿鼻叫喚。
広い銀行内で、数十人の客と、十数名の職員がそれぞれの方法で恐怖を表現していた。
ラスタ「動くな!! おいッ! 両手を後ろに回して伏せろッ!!」
デイビッド「騒いでいいのは俺たちだけだ! ケツの穴締めて黙ってろ!」
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
デスクの裏側にあるボタンを何度も押しながら、受付嬢は怯えている。
警報装置が作動しない。
アリシア「にゃははははッ! 警報なんて無駄だよ!」
ドンッ!!
受付嬢の頭が吹き飛んだ。
アリシアが、ショットガンの引き金を躊躇なく引いたからだ。
アリシア「私より可愛いヤツは皆死ね!!」
吸血鬼#「落ち着きなさい。貴方、私の次に可愛いわよ」
デイビッド「おい、職員通路のロックを解除だ」
アリシア「はいはい」
アリシアが腕に巻きつけた端末をいじると、あっけなく開いた。
あの先にあるのは――。
大量の金塊、そして銀塊。
ある書物の一節――。
――吸血鬼は実に奇妙で非科学的な存在だが、彼らの生態は決して破綻していない。
まず、なぜ吸血鬼は鏡に映らないのか。
それは、吸血鬼が『鏡の性質』を自在に操っているからだ。
光が反射した結果である『鏡』の奥に、新しい『隣の世界』を創造していると言っても良い。
彼らは鏡を『魔鏡』へと変化させる。
そして魔鏡に映ったものを自由に出し入れできる。
魔鏡から取り出したものは、その魔鏡には反射しなくなるのだ。
そして吸血鬼は全て、鏡の奥からやってきた。
これが何を意味するのか。
そう。
吸血鬼は、付近に鏡がある限り『隣の世界の自分』を無限に連れてくることが出来る。
光を歪ませず反射する可能性のあるものを、吸血鬼の近くに置くべきではない。
#西暦2014年8月12日#
#5日目#
女「……!」
私は、本を置いて振り返る。
私の鹿料理を褒めてくれた女性が立っていた。
魔女「読んだみたいね。そうよ、ここは『魔鏡』の中の世界――」
女「親切に、教えてくれるんですね……私は元ヴァンパイアハンターですよ」
魔女「ハンター内でも貴方は小さな歯車に過ぎない。貴方が欠けたって、何も変わらない……」
女「人を使い捨ての道具みたいに言わないでください」
「否、お前は道具だ」
女「……。違います……」
魔女「なら証明してみせなさい。お前が道具でないならば、その書物以上の知識を持っているはず」
魔女「人と道具を峻別するのは、ただただ、見ている世界の広さのみ」
「さあ、聞きましょうか」
「吸血鬼は、今どこにいる?」
女「…………」
魔女「アッハハハハハハ!!! 何も知らないのね!?」
女「ええ、私はどうせ、何も知りませんよ! 何が言いたいんですか?」
魔女「……教えてあげる。そして、お前を道具の身分から解放する」
8月10日
ある富豪が大量の『銀』を購入した。
れど、それがあまりにも多いので――。
銀行に保管されてから、順次輸送される運びとなったのよ。
そして8月12日の正午が、第1回の輸送が始まる予定よ。
けれど吸血鬼は、不穏当な情報を察知した。
その日に合わせ、ヴァンパイアハンターが銀行強盗するらしい。
ハンターが大量の『銀』を手にすれば、吸血鬼側は圧倒的な不利となる。
だから彼女は、その妨害に出たのよ。
「妨害?」
銀行強盗から強盗するという形でね。
女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」
魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」
女「知っているんですか?」
魔女「貴方は?」
女「いえ……詳しくは知りませんが……」
しばしの沈黙。
魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」
女「えっ」
魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」
女「貴方も吸血鬼なんですか……?」
魔女「――早くしないと置いてくわよ」
女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」
魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」
女「知っているんですか?」
魔女「貴方は?」
女「いえ……詳しくは知りませんが……」
しばしの沈黙。
魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」
女「えっ」
魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」
女「貴方も吸血鬼なんですか……?」
魔女「――早くしないと置いてくわよ」
#●日目#
#道具No.0:吸血鬼
アリシア「にゃははははッ! 敵の銃撃が止まらにゃんにゃんにゃん!」
吸血鬼#「なんですって?」
あまりにも激しい銃撃戦は、まるで工事現場のように聞こえる。
案外そんなものだ。
銀行奥、金庫内に立てこもる一行。
金塊や札束は身を護ってくれない。
ライフルによる攻撃はより激しくなる。
倉庫を出ると、正面に幅4mほどの通路が伸びている。
ところどころの遮蔽物に身を隠した戦闘員が、激しい銃撃を浴びせてくる。
金庫内の財宝がどうなろうと、お構いなしの猛攻だった。
デイビッド「……敵の銃弾に『銀』が含有されていることを確認した」
ラスタ「マジでヴァンパイアハンターだったのかよ!」
吸血鬼#「私の眷属なんだから、アンタたちも『銀』に弱いのよ!!」
放り込まれたグレネードを投げ返しながら、吸血鬼が言った。
吸血鬼と契約した者は『眷属』と呼ばれ、強大な力を手にする。
その代償は3つ。
①吸血鬼に絶対服従。
②吸血鬼の弱点をより色濃く受け継ぐ。
③72時間ごとに、合計で500ml以上の血液を摂取しなければ死亡する。
ラスタ「おい、何か近づくぞ! 光かッ!?」
こぶし大の光が凄まじいスピードで飛来し、敵の戦闘員を一掃する。
舞い上がる粉塵。
粉塵が晴れる。
1人、淡く輝く本を持った人影があった。
魔女「まったく……私がいなきゃ何も出来ないのね」
吸血鬼#「助かったわ。自慢の膂力も、銀の弾幕の前じゃ分が悪いし」
デイビッド「こちらの御婦人は?」
吸血鬼#「知り合いの魔女よ」
ラスタ「魔女って……あの魔女か!? 実在のファンタジーは吸血鬼くらいだと思ってたぜ!」
魔女「そうね。……もう来て大丈夫よ」
魔女が手招きをすると、女が出てきた。
女「吸血鬼さん!」
吸血鬼#「アンタ、抜け出したのね!」
女「ええ……でも、足手纏いにはなりません!」
アリシア「賑やかでいいねえ」
魔女の魔導書が輝きを増す。
次の瞬間には、吸血鬼の眷属3人が声もなく倒れていた。
魔女「『即死の魔導書』……半径10m以内から『術者より弱い存在』を任意数抽出し、それを確実に殺害する」
吸血鬼「なんで私の眷属殺してんのよ……」
魔女「そして『漆黒の魔導書』……半径100m以内の全ての光を打ち消す」
そもそも光が無いのだ。
『夜目が利く』とか、そういうことでは対処できない。
視界が暗転する――^。
#魔女#
女「な、何をッ……!? 離してください!」
魔女「この女は『人質』よ……そして周囲を暗くした理由が分かるかしら」
吸血鬼#「……鏡面を失くすため……」
魔女「そう。貴方たちは、鏡があれば何でもそれを『魔鏡』にする……魔鏡から無限に吸血鬼が湧いてくる」
――鏡の定義は、光をよく反射すること。
光のない世界では、貴方は増殖できない!
鏡に映らずに死んでゆけ!
魔女が叫び、不可視の弾丸が飛び交う。
僅かな音と振動だけを頼りに回避する。
私は、これをよく知っていた。
『精神分解弾』だ――。
効果は単純、触れたら心が壊れて死ぬ……。
本来は『大袈裟な青白い光』を欠点としていたが、その光ごと、周囲の光を全て奪うことによりこの弱点をカバーしていた。
吸血鬼#「くっ……ねえ!! ひとつ聞いていいかしら!」
魔女「フフフ……何かしら」
吸血鬼#「何で私を襲ってるんだ!? 400年も一緒だったじゃないか!」
魔女「……400年も一緒だったからよ」
吸血鬼#「私は貴方を愛していた! お前もそれに応えてくれた400年だったはずッ!!」
魔女「だからこそ殺し合うのよッ!!」
「『魔女』に『吸血鬼』!! ……幻想は、この時代に必要とされていない過去の遺物!」
「だから……古い道具は買い替える必要があるの!!」
吸血鬼「私たちは『道具』ではないッ! これまでもッ! これからもッ!!」
#精神的な死#
魔女「なら吸血鬼として朽ちてゆけッ」
私の額に『精神分解弾』が命中する。
バリバリバリ。雷鳴のような響き。
心が崩れてゆく――。
#
女「な、何が起きたんですかッ! 吸血鬼さん! 返事をしてください!」
私は魔女だ。
光がない状況でも、自分の放った魔法が現在どうなっているか分かる。
状態は『被弾』――。吸血鬼は確実に死んでいる。
女「貴方が殺したのね!? 400年来の付き合いなんでしょ!? この人でなし!」
魔女「人にあらず。魔女だから悪人なんでしょ?」
女「『魔女だから悪人』?」
魔女「『道具』と形容したほうがいいかしら」
魔女は、集団ヒステリーにより生まれた。
魔女狩りの歴史はあまりにも有名だ。
そして、魔女狩りの犠牲者は9割以上、『魔女』ではなく生身の人間だった。
『魔女狩りの対象』は、個人間の利害や恨み、個人の妄想によって告発されてきたからだ。
魔女が居なくなってしまえば、魔女狩りは出来ぬ。
よって、『伝承の発生源』として、魔女は生かさず殺さずの状態を保たれてきたのである。
「より大きな集団心理や教会に、人生のレールを強制される気持ちが分かる!?」
「それは吸血鬼も同じなのよ……こんなに辛いなら………」
「誰かが終わらせなきゃ、しょうがないじゃない!!」
#吸血鬼#吸血鬼#
腹部に、耐えがたい熱さを感じる。
抉られている。
――確認のために『漆黒の魔導書』による暗転を0.5秒だけ解除してしまったからだ。
吸血鬼「お前の負けだ。さあ、家に帰ろう」
再びの暗転。
だが状況は一変している。
周囲に10体の吸血鬼があり、人質の女も10mほど後方に引き離されていた。
……私の負けだ。私は、暗転を解除した。
吸血鬼「私が1人しか居ないと、いつから錯覚していた?」
吸血鬼「私が操っていたのは『鏡』ではなく『概念の境界線』だ……吸血鬼は、招かれざる部屋には入れないのさ」
吸血鬼「自分自身に、隣の世界の自分を重ねて入れた……『わたし』は最初から2人居たということッ!」
私は、ふと、先程吸血鬼が倒れていた場所を見る。
吸血鬼#「……」
彼女自身が死んでいた。
この吸血鬼は、目的のためなら自分をも殺せる人だ。
……生命に対する考え方の差。
それが私の敗因――。
#吸血鬼#魔女#
吸血鬼「ちょっとボタンを掛け違えただけなのよ……もうやめにしよう。いつもの日常に戻るだけ……」
魔女「違うのよ……ボタンを落としてしまった……もう後戻りできない」
吸血鬼「どういうこと?」
魔女「『ヴァンパイアハンター』のリーダーは、私よ」
吸血鬼「!!」
魔女「全ての『幻想』を殺す……最後に残るのは、私の屍だけ……」
魔女「私を殺しなさい! 結局、殺し合いしかないのよ!!」
吸血鬼「……分かった。それ以外に言うことは?」
魔女「貴方の『魔鏡』に、『アカシックレコードの断片』を保管してある」
吸血鬼「アカシックレコード?」
魔女「の、断片よ。貴方の人生で役に立つはず。それじゃあ……また来世で会いましょう」
私は、吸血鬼。
無謬なる力を持つもの。
私は、魔女の腹を引き裂いた。
それと同時に頭部を完全に破壊したのは――最小限の苦しみで絶命させようとしたからだ。
市民の通報を受けて、ニューヨーク市警が通報後20分で到着したのと、全てが終わったのは同時刻だった。
そこにあるのは10体ほどの死体と、鏡だけ――。
#そして……#
#道具No.X:幻想
吸血鬼「いろいろゴタゴタしたけど、私とメイドが貴方を客人として迎えるから」
女「……ありがとうございます」
吸血鬼「もう。本当に気にしなくていいのよ」
女「…………貴方は、人間が嫌いですか?」
吸血鬼「……何よ、急に……」
女「人間は、貴方のイメージを流用して、好き勝手に貴方を題材に創作しています」
女「勝手なイメージを押し付けられる毎日。儲けるのは一部の作家と、それにしがみつく一部の集団だけ」
女「作られた幻想に、実在する迫害。人間を嫌いになってもしょうがないと思います」
女「もう一度聞きます。……貴方は、人間が嫌いですか?」
吸血鬼「……私はね……」
「人間が大好き」
#顛末#
吸血鬼「結局、あの女は、私を刺してから2週間。最後の話を聞いてから7日目に去って行ったってワケ」
吸血鬼「メイドはあれの3年後、被吸血依存症で死んだ。客人の女は5年後に強盗に刺されて死ぬ」
ロボット「諸行無常でございますか」
吸血鬼「いい熟語ね。私、人間の儚さっていうのも気に入ってるから」
ロボット「……結局、アカシックレコードの断片というのは」
吸血鬼「それはね……」
吸血鬼。
女。
魔女。
3人の思考を全てインプットした、全自動日記だった。
……ところどころ、一人称がズレたことがあったでしょ?
あれは、アカシックレコードの記録を再編して貴方に伝えたからなのよ。
ロボット「では魔女は、貴方に何を託したかったのか……」
吸血鬼「そうね……あいつは、あいつ自身の『弱さ』を私に託したかったんじゃないかしら」
ロボット「弱さ」
吸血鬼「『思い出』とは、所詮幻想に過ぎない。けれど、それに縋り付くことでしか生きてゆけない」
ロボット「私にも心当たりがございます」
吸血鬼「……でしょ?」
さて。
概念すら失ったこの世界。
少々の思い出話を休止して――。
1人と1体の創世記が始まった。
END
以上です。
わりと受けの悪い話を書いてしまいましたね……。
ところで、上の安価では「①吸血鬼と三途の川」が人気でしたが――。
書き溜めの重要性を痛感したので、また別にスレを建てて書きます。
それでは。
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都合で書き込めませんでした。すみません。
今から2件だけ投稿できそうです。
今から2件だけ投稿できそうです。
114: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/04(金)09:00:33 ID:9aF6kHrGk
#4日目#
女「……どうですか?」
魔女「うん。あっさりまとまってて良いわね。鹿肉特有の臭みがうまく消えてる」
女「やった!」
魔女「肉厚のステーキをこんなに上手く焼く初心者、初めてみたわ……アンタ、才能あるよ」
女「……!!」
吸血鬼「あら、私の教育の結果よ? そっちは褒めないのかしら?」
魔女「はいはい」
その晩。
吸血鬼「ここが貴方の部屋。備品は好きにしていいわよ」
女「ありがとうございます!」
深夜。
吸血鬼#「明日決行するのだけれど。準備できているわね?」
吸血鬼「ええ」
吸血鬼#「目標の銀行は鏡面が多い。もう一度見取り図を確認しなさい」
吸血鬼「分かっている。『隣の世界のわたし』よ……私たちは一心同体なのだから」
唯一の不安は、当日にヴァンパイアハンターが介入してこないかということだった。
常に情報とは漏えいしていると思った方がいい。
そのくらい慎重なほうが……。
115: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/04(金)09:01:18 ID:9aF6kHrGk
#●日目#
銀行。
覆面姿で銃を持った4人組が、勢いよく正面玄関から侵入する。
阿鼻叫喚。
広い銀行内で、数十人の客と、十数名の職員がそれぞれの方法で恐怖を表現していた。
ラスタ「動くな!! おいッ! 両手を後ろに回して伏せろッ!!」
デイビッド「騒いでいいのは俺たちだけだ! ケツの穴締めて黙ってろ!」
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
デスクの裏側にあるボタンを何度も押しながら、受付嬢は怯えている。
警報装置が作動しない。
アリシア「にゃははははッ! 警報なんて無駄だよ!」
ドンッ!!
受付嬢の頭が吹き飛んだ。
アリシアが、ショットガンの引き金を躊躇なく引いたからだ。
アリシア「私より可愛いヤツは皆死ね!!」
吸血鬼#「落ち着きなさい。貴方、私の次に可愛いわよ」
デイビッド「おい、職員通路のロックを解除だ」
アリシア「はいはい」
アリシアが腕に巻きつけた端末をいじると、あっけなく開いた。
あの先にあるのは――。
大量の金塊、そして銀塊。
116: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)13:16:38 ID:fi7OY7hQA
ある書物の一節――。
――吸血鬼は実に奇妙で非科学的な存在だが、彼らの生態は決して破綻していない。
まず、なぜ吸血鬼は鏡に映らないのか。
それは、吸血鬼が『鏡の性質』を自在に操っているからだ。
光が反射した結果である『鏡』の奥に、新しい『隣の世界』を創造していると言っても良い。
彼らは鏡を『魔鏡』へと変化させる。
そして魔鏡に映ったものを自由に出し入れできる。
魔鏡から取り出したものは、その魔鏡には反射しなくなるのだ。
そして吸血鬼は全て、鏡の奥からやってきた。
これが何を意味するのか。
そう。
吸血鬼は、付近に鏡がある限り『隣の世界の自分』を無限に連れてくることが出来る。
光を歪ませず反射する可能性のあるものを、吸血鬼の近くに置くべきではない。
117: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)13:33:50 ID:fi7OY7hQA
#西暦2014年8月12日#
#5日目#
女「……!」
私は、本を置いて振り返る。
私の鹿料理を褒めてくれた女性が立っていた。
魔女「読んだみたいね。そうよ、ここは『魔鏡』の中の世界――」
女「親切に、教えてくれるんですね……私は元ヴァンパイアハンターですよ」
魔女「ハンター内でも貴方は小さな歯車に過ぎない。貴方が欠けたって、何も変わらない……」
女「人を使い捨ての道具みたいに言わないでください」
「否、お前は道具だ」
女「……。違います……」
魔女「なら証明してみせなさい。お前が道具でないならば、その書物以上の知識を持っているはず」
魔女「人と道具を峻別するのは、ただただ、見ている世界の広さのみ」
「さあ、聞きましょうか」
「吸血鬼は、今どこにいる?」
女「…………」
魔女「アッハハハハハハ!!! 何も知らないのね!?」
女「ええ、私はどうせ、何も知りませんよ! 何が言いたいんですか?」
魔女「……教えてあげる。そして、お前を道具の身分から解放する」
118: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)14:33:07 ID:fi7OY7hQA
8月10日
ある富豪が大量の『銀』を購入した。
れど、それがあまりにも多いので――。
銀行に保管されてから、順次輸送される運びとなったのよ。
そして8月12日の正午が、第1回の輸送が始まる予定よ。
けれど吸血鬼は、不穏当な情報を察知した。
その日に合わせ、ヴァンパイアハンターが銀行強盗するらしい。
ハンターが大量の『銀』を手にすれば、吸血鬼側は圧倒的な不利となる。
だから彼女は、その妨害に出たのよ。
「妨害?」
銀行強盗から強盗するという形でね。
119: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)15:44:55 ID:fi7OY7hQA
女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」
魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」
女「知っているんですか?」
魔女「貴方は?」
女「いえ……詳しくは知りませんが……」
しばしの沈黙。
魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」
女「えっ」
魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」
女「貴方も吸血鬼なんですか……?」
魔女「――早くしないと置いてくわよ」
120: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)15:51:25 ID:fi7OY7hQA
女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」
魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」
女「知っているんですか?」
魔女「貴方は?」
女「いえ……詳しくは知りませんが……」
しばしの沈黙。
魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」
女「えっ」
魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」
女「貴方も吸血鬼なんですか……?」
魔女「――早くしないと置いてくわよ」
121: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)16:06:13 ID:fi7OY7hQA
#●日目#
#道具No.0:吸血鬼
アリシア「にゃははははッ! 敵の銃撃が止まらにゃんにゃんにゃん!」
吸血鬼#「なんですって?」
あまりにも激しい銃撃戦は、まるで工事現場のように聞こえる。
案外そんなものだ。
銀行奥、金庫内に立てこもる一行。
金塊や札束は身を護ってくれない。
ライフルによる攻撃はより激しくなる。
倉庫を出ると、正面に幅4mほどの通路が伸びている。
ところどころの遮蔽物に身を隠した戦闘員が、激しい銃撃を浴びせてくる。
金庫内の財宝がどうなろうと、お構いなしの猛攻だった。
デイビッド「……敵の銃弾に『銀』が含有されていることを確認した」
ラスタ「マジでヴァンパイアハンターだったのかよ!」
吸血鬼#「私の眷属なんだから、アンタたちも『銀』に弱いのよ!!」
放り込まれたグレネードを投げ返しながら、吸血鬼が言った。
吸血鬼と契約した者は『眷属』と呼ばれ、強大な力を手にする。
その代償は3つ。
①吸血鬼に絶対服従。
②吸血鬼の弱点をより色濃く受け継ぐ。
③72時間ごとに、合計で500ml以上の血液を摂取しなければ死亡する。
122: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)17:40:35 ID:fi7OY7hQA
ラスタ「おい、何か近づくぞ! 光かッ!?」
こぶし大の光が凄まじいスピードで飛来し、敵の戦闘員を一掃する。
舞い上がる粉塵。
粉塵が晴れる。
1人、淡く輝く本を持った人影があった。
魔女「まったく……私がいなきゃ何も出来ないのね」
吸血鬼#「助かったわ。自慢の膂力も、銀の弾幕の前じゃ分が悪いし」
デイビッド「こちらの御婦人は?」
吸血鬼#「知り合いの魔女よ」
ラスタ「魔女って……あの魔女か!? 実在のファンタジーは吸血鬼くらいだと思ってたぜ!」
魔女「そうね。……もう来て大丈夫よ」
魔女が手招きをすると、女が出てきた。
女「吸血鬼さん!」
吸血鬼#「アンタ、抜け出したのね!」
女「ええ……でも、足手纏いにはなりません!」
アリシア「賑やかでいいねえ」
魔女の魔導書が輝きを増す。
次の瞬間には、吸血鬼の眷属3人が声もなく倒れていた。
魔女「『即死の魔導書』……半径10m以内から『術者より弱い存在』を任意数抽出し、それを確実に殺害する」
吸血鬼「なんで私の眷属殺してんのよ……」
魔女「そして『漆黒の魔導書』……半径100m以内の全ての光を打ち消す」
そもそも光が無いのだ。
『夜目が利く』とか、そういうことでは対処できない。
視界が暗転する――^。
124: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)18:11:49 ID:fi7OY7hQA
#魔女#
女「な、何をッ……!? 離してください!」
魔女「この女は『人質』よ……そして周囲を暗くした理由が分かるかしら」
吸血鬼#「……鏡面を失くすため……」
魔女「そう。貴方たちは、鏡があれば何でもそれを『魔鏡』にする……魔鏡から無限に吸血鬼が湧いてくる」
――鏡の定義は、光をよく反射すること。
光のない世界では、貴方は増殖できない!
鏡に映らずに死んでゆけ!
魔女が叫び、不可視の弾丸が飛び交う。
僅かな音と振動だけを頼りに回避する。
私は、これをよく知っていた。
『精神分解弾』だ――。
効果は単純、触れたら心が壊れて死ぬ……。
本来は『大袈裟な青白い光』を欠点としていたが、その光ごと、周囲の光を全て奪うことによりこの弱点をカバーしていた。
吸血鬼#「くっ……ねえ!! ひとつ聞いていいかしら!」
魔女「フフフ……何かしら」
吸血鬼#「何で私を襲ってるんだ!? 400年も一緒だったじゃないか!」
魔女「……400年も一緒だったからよ」
吸血鬼#「私は貴方を愛していた! お前もそれに応えてくれた400年だったはずッ!!」
魔女「だからこそ殺し合うのよッ!!」
「『魔女』に『吸血鬼』!! ……幻想は、この時代に必要とされていない過去の遺物!」
「だから……古い道具は買い替える必要があるの!!」
吸血鬼「私たちは『道具』ではないッ! これまでもッ! これからもッ!!」
125: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)19:09:55 ID:fi7OY7hQA
#精神的な死#
魔女「なら吸血鬼として朽ちてゆけッ」
私の額に『精神分解弾』が命中する。
バリバリバリ。雷鳴のような響き。
心が崩れてゆく――。
#
女「な、何が起きたんですかッ! 吸血鬼さん! 返事をしてください!」
私は魔女だ。
光がない状況でも、自分の放った魔法が現在どうなっているか分かる。
状態は『被弾』――。吸血鬼は確実に死んでいる。
女「貴方が殺したのね!? 400年来の付き合いなんでしょ!? この人でなし!」
魔女「人にあらず。魔女だから悪人なんでしょ?」
女「『魔女だから悪人』?」
魔女「『道具』と形容したほうがいいかしら」
魔女は、集団ヒステリーにより生まれた。
魔女狩りの歴史はあまりにも有名だ。
そして、魔女狩りの犠牲者は9割以上、『魔女』ではなく生身の人間だった。
『魔女狩りの対象』は、個人間の利害や恨み、個人の妄想によって告発されてきたからだ。
魔女が居なくなってしまえば、魔女狩りは出来ぬ。
よって、『伝承の発生源』として、魔女は生かさず殺さずの状態を保たれてきたのである。
「より大きな集団心理や教会に、人生のレールを強制される気持ちが分かる!?」
「それは吸血鬼も同じなのよ……こんなに辛いなら………」
「誰かが終わらせなきゃ、しょうがないじゃない!!」
126: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)08:15:03 ID:vLnOTY4Dl
#吸血鬼#吸血鬼#
腹部に、耐えがたい熱さを感じる。
抉られている。
――確認のために『漆黒の魔導書』による暗転を0.5秒だけ解除してしまったからだ。
吸血鬼「お前の負けだ。さあ、家に帰ろう」
再びの暗転。
だが状況は一変している。
周囲に10体の吸血鬼があり、人質の女も10mほど後方に引き離されていた。
……私の負けだ。私は、暗転を解除した。
吸血鬼「私が1人しか居ないと、いつから錯覚していた?」
吸血鬼「私が操っていたのは『鏡』ではなく『概念の境界線』だ……吸血鬼は、招かれざる部屋には入れないのさ」
吸血鬼「自分自身に、隣の世界の自分を重ねて入れた……『わたし』は最初から2人居たということッ!」
私は、ふと、先程吸血鬼が倒れていた場所を見る。
吸血鬼#「……」
彼女自身が死んでいた。
この吸血鬼は、目的のためなら自分をも殺せる人だ。
……生命に対する考え方の差。
それが私の敗因――。
127: 名無しさん@おーぷん 2014/07/06(日)08:42:28 ID:tRASSydib
レミリア様いいよね
ほすほす
映姫様最高(無関係)
ほすほす
映姫様最高(無関係)
128: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)08:58:13 ID:vLnOTY4Dl
#吸血鬼#魔女#
吸血鬼「ちょっとボタンを掛け違えただけなのよ……もうやめにしよう。いつもの日常に戻るだけ……」
魔女「違うのよ……ボタンを落としてしまった……もう後戻りできない」
吸血鬼「どういうこと?」
魔女「『ヴァンパイアハンター』のリーダーは、私よ」
吸血鬼「!!」
魔女「全ての『幻想』を殺す……最後に残るのは、私の屍だけ……」
魔女「私を殺しなさい! 結局、殺し合いしかないのよ!!」
吸血鬼「……分かった。それ以外に言うことは?」
魔女「貴方の『魔鏡』に、『アカシックレコードの断片』を保管してある」
吸血鬼「アカシックレコード?」
魔女「の、断片よ。貴方の人生で役に立つはず。それじゃあ……また来世で会いましょう」
私は、吸血鬼。
無謬なる力を持つもの。
私は、魔女の腹を引き裂いた。
それと同時に頭部を完全に破壊したのは――最小限の苦しみで絶命させようとしたからだ。
市民の通報を受けて、ニューヨーク市警が通報後20分で到着したのと、全てが終わったのは同時刻だった。
そこにあるのは10体ほどの死体と、鏡だけ――。
129: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)16:11:31 ID:vLnOTY4Dl
#そして……#
#道具No.X:幻想
吸血鬼「いろいろゴタゴタしたけど、私とメイドが貴方を客人として迎えるから」
女「……ありがとうございます」
吸血鬼「もう。本当に気にしなくていいのよ」
女「…………貴方は、人間が嫌いですか?」
吸血鬼「……何よ、急に……」
女「人間は、貴方のイメージを流用して、好き勝手に貴方を題材に創作しています」
女「勝手なイメージを押し付けられる毎日。儲けるのは一部の作家と、それにしがみつく一部の集団だけ」
女「作られた幻想に、実在する迫害。人間を嫌いになってもしょうがないと思います」
女「もう一度聞きます。……貴方は、人間が嫌いですか?」
吸血鬼「……私はね……」
「人間が大好き」
130: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)17:56:55 ID:vLnOTY4Dl
#顛末#
吸血鬼「結局、あの女は、私を刺してから2週間。最後の話を聞いてから7日目に去って行ったってワケ」
吸血鬼「メイドはあれの3年後、被吸血依存症で死んだ。客人の女は5年後に強盗に刺されて死ぬ」
ロボット「諸行無常でございますか」
吸血鬼「いい熟語ね。私、人間の儚さっていうのも気に入ってるから」
ロボット「……結局、アカシックレコードの断片というのは」
吸血鬼「それはね……」
吸血鬼。
女。
魔女。
3人の思考を全てインプットした、全自動日記だった。
……ところどころ、一人称がズレたことがあったでしょ?
あれは、アカシックレコードの記録を再編して貴方に伝えたからなのよ。
ロボット「では魔女は、貴方に何を託したかったのか……」
吸血鬼「そうね……あいつは、あいつ自身の『弱さ』を私に託したかったんじゃないかしら」
ロボット「弱さ」
吸血鬼「『思い出』とは、所詮幻想に過ぎない。けれど、それに縋り付くことでしか生きてゆけない」
ロボット「私にも心当たりがございます」
吸血鬼「……でしょ?」
さて。
概念すら失ったこの世界。
少々の思い出話を休止して――。
1人と1体の創世記が始まった。
END
131: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)18:02:32 ID:vLnOTY4Dl
以上です。
わりと受けの悪い話を書いてしまいましたね……。
ところで、上の安価では「①吸血鬼と三途の川」が人気でしたが――。
書き溜めの重要性を痛感したので、また別にスレを建てて書きます。
それでは。
132: ◆CcfcxOpggI 2014/07/06(日)18:07:12 ID:vLnOTY4Dl
乗っ取りだと思われそうなので、もう一度こっちのトリで。
トリが変わった理由は、メモを紛失していたからです。
トリが変わった理由は、メモを紛失していたからです。
134: 名無しさん@おーぷん 2014/07/07(月)02:59:11 ID:HkZmANPmF
乙乙
スレたてした時はこっちの
リンクはってほしいな
スレたてした時はこっちの
リンクはってほしいな
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