吸血鬼「あら、貴方も私と同じなのね……」
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no title

113: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/04(金)08:59:52 ID:9aF6kHrGk
都合で書き込めませんでした。すみません。
今から2件だけ投稿できそうです。

114: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/04(金)09:00:33 ID:9aF6kHrGk

#4日目#


女「……どうですか?」

魔女「うん。あっさりまとまってて良いわね。鹿肉特有の臭みがうまく消えてる」

女「やった!」

魔女「肉厚のステーキをこんなに上手く焼く初心者、初めてみたわ……アンタ、才能あるよ」

女「……!!」

吸血鬼「あら、私の教育の結果よ? そっちは褒めないのかしら?」

魔女「はいはい」


その晩。


吸血鬼「ここが貴方の部屋。備品は好きにしていいわよ」

女「ありがとうございます!」


深夜。


吸血鬼#「明日決行するのだけれど。準備できているわね?」

吸血鬼「ええ」

吸血鬼#「目標の銀行は鏡面が多い。もう一度見取り図を確認しなさい」

吸血鬼「分かっている。『隣の世界のわたし』よ……私たちは一心同体なのだから」


唯一の不安は、当日にヴァンパイアハンターが介入してこないかということだった。
常に情報とは漏えいしていると思った方がいい。
そのくらい慎重なほうが……。


115: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/04(金)09:01:18 ID:9aF6kHrGk


#●日目#


銀行。
覆面姿で銃を持った4人組が、勢いよく正面玄関から侵入する。

阿鼻叫喚。
広い銀行内で、数十人の客と、十数名の職員がそれぞれの方法で恐怖を表現していた。


ラスタ「動くな!! おいッ! 両手を後ろに回して伏せろッ!!」

デイビッド「騒いでいいのは俺たちだけだ! ケツの穴締めて黙ってろ!」


カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
デスクの裏側にあるボタンを何度も押しながら、受付嬢は怯えている。
警報装置が作動しない。


アリシア「にゃははははッ! 警報なんて無駄だよ!」


ドンッ!!

受付嬢の頭が吹き飛んだ。
アリシアが、ショットガンの引き金を躊躇なく引いたからだ。


アリシア「私より可愛いヤツは皆死ね!!」

吸血鬼#「落ち着きなさい。貴方、私の次に可愛いわよ」

デイビッド「おい、職員通路のロックを解除だ」

アリシア「はいはい」


アリシアが腕に巻きつけた端末をいじると、あっけなく開いた。
あの先にあるのは――。

大量の金塊、そして銀塊。

116: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)13:16:38 ID:fi7OY7hQA


ある書物の一節――。


――吸血鬼は実に奇妙で非科学的な存在だが、彼らの生態は決して破綻していない。


まず、なぜ吸血鬼は鏡に映らないのか。

それは、吸血鬼が『鏡の性質』を自在に操っているからだ。


光が反射した結果である『鏡』の奥に、新しい『隣の世界』を創造していると言っても良い。


彼らは鏡を『魔鏡』へと変化させる。


そして魔鏡に映ったものを自由に出し入れできる。

魔鏡から取り出したものは、その魔鏡には反射しなくなるのだ。


そして吸血鬼は全て、鏡の奥からやってきた。

これが何を意味するのか。


そう。

吸血鬼は、付近に鏡がある限り『隣の世界の自分』を無限に連れてくることが出来る。


光を歪ませず反射する可能性のあるものを、吸血鬼の近くに置くべきではない。


117: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)13:33:50 ID:fi7OY7hQA


#西暦2014年8月12日#
#5日目#


女「……!」


私は、本を置いて振り返る。
私の鹿料理を褒めてくれた女性が立っていた。


魔女「読んだみたいね。そうよ、ここは『魔鏡』の中の世界――」

女「親切に、教えてくれるんですね……私は元ヴァンパイアハンターですよ」

魔女「ハンター内でも貴方は小さな歯車に過ぎない。貴方が欠けたって、何も変わらない……」

女「人を使い捨ての道具みたいに言わないでください」


「否、お前は道具だ」


女「……。違います……」

魔女「なら証明してみせなさい。お前が道具でないならば、その書物以上の知識を持っているはず」

魔女「人と道具を峻別するのは、ただただ、見ている世界の広さのみ」


「さあ、聞きましょうか」
「吸血鬼は、今どこにいる?」


女「…………」

魔女「アッハハハハハハ!!! 何も知らないのね!?」

女「ええ、私はどうせ、何も知りませんよ! 何が言いたいんですか?」

魔女「……教えてあげる。そして、お前を道具の身分から解放する」

118: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)14:33:07 ID:fi7OY7hQA


8月10日

ある富豪が大量の『銀』を購入した。

れど、それがあまりにも多いので――。

銀行に保管されてから、順次輸送される運びとなったのよ。


そして8月12日の正午が、第1回の輸送が始まる予定よ。


けれど吸血鬼は、不穏当な情報を察知した。

その日に合わせ、ヴァンパイアハンターが銀行強盗するらしい。


ハンターが大量の『銀』を手にすれば、吸血鬼側は圧倒的な不利となる。

だから彼女は、その妨害に出たのよ。


「妨害?」


銀行強盗から強盗するという形でね。

119: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)15:44:55 ID:fi7OY7hQA


女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」

魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」

女「知っているんですか?」

魔女「貴方は?」

女「いえ……詳しくは知りませんが……」


しばしの沈黙。


魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」

女「えっ」

魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」

女「貴方も吸血鬼なんですか……?」

魔女「――早くしないと置いてくわよ」

120: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)15:51:25 ID:fi7OY7hQA

女「……止めさせるべきです。ハンターは今、危険です」

魔女「危険……。そう、例の『切り札』のことを言っているのね」

女「知っているんですか?」

魔女「貴方は?」

女「いえ……詳しくは知りませんが……」


しばしの沈黙。


魔女「……私も、遅れて彼女を支援する予定だけど。貴方も随伴しなさい」

女「えっ」

魔女「ここに『魔鏡』がある。そして私は、『魔鏡』をコントロールできる」

女「貴方も吸血鬼なんですか……?」

魔女「――早くしないと置いてくわよ」

121: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)16:06:13 ID:fi7OY7hQA


#●日目#
#道具No.0:吸血鬼


アリシア「にゃははははッ! 敵の銃撃が止まらにゃんにゃんにゃん!」

吸血鬼#「なんですって?」


あまりにも激しい銃撃戦は、まるで工事現場のように聞こえる。
案外そんなものだ。

銀行奥、金庫内に立てこもる一行。
金塊や札束は身を護ってくれない。

ライフルによる攻撃はより激しくなる。

倉庫を出ると、正面に幅4mほどの通路が伸びている。
ところどころの遮蔽物に身を隠した戦闘員が、激しい銃撃を浴びせてくる。


金庫内の財宝がどうなろうと、お構いなしの猛攻だった。


デイビッド「……敵の銃弾に『銀』が含有されていることを確認した」

ラスタ「マジでヴァンパイアハンターだったのかよ!」

吸血鬼#「私の眷属なんだから、アンタたちも『銀』に弱いのよ!!」


放り込まれたグレネードを投げ返しながら、吸血鬼が言った。
吸血鬼と契約した者は『眷属』と呼ばれ、強大な力を手にする。


その代償は3つ。

①吸血鬼に絶対服従。

②吸血鬼の弱点をより色濃く受け継ぐ。

③72時間ごとに、合計で500ml以上の血液を摂取しなければ死亡する。

122: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)17:40:35 ID:fi7OY7hQA

ラスタ「おい、何か近づくぞ! 光かッ!?」


こぶし大の光が凄まじいスピードで飛来し、敵の戦闘員を一掃する。
舞い上がる粉塵。
粉塵が晴れる。
1人、淡く輝く本を持った人影があった。


魔女「まったく……私がいなきゃ何も出来ないのね」

吸血鬼#「助かったわ。自慢の膂力も、銀の弾幕の前じゃ分が悪いし」

デイビッド「こちらの御婦人は?」

吸血鬼#「知り合いの魔女よ」

ラスタ「魔女って……あの魔女か!? 実在のファンタジーは吸血鬼くらいだと思ってたぜ!」

魔女「そうね。……もう来て大丈夫よ」


魔女が手招きをすると、女が出てきた。

女「吸血鬼さん!」

吸血鬼#「アンタ、抜け出したのね!」

女「ええ……でも、足手纏いにはなりません!」

アリシア「賑やかでいいねえ」


魔女の魔導書が輝きを増す。
次の瞬間には、吸血鬼の眷属3人が声もなく倒れていた。


魔女「『即死の魔導書』……半径10m以内から『術者より弱い存在』を任意数抽出し、それを確実に殺害する」

吸血鬼「なんで私の眷属殺してんのよ……」

魔女「そして『漆黒の魔導書』……半径100m以内の全ての光を打ち消す」


そもそも光が無いのだ。
『夜目が利く』とか、そういうことでは対処できない。
視界が暗転する――^。

124: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)18:11:49 ID:fi7OY7hQA


#魔女#


女「な、何をッ……!? 離してください!」

魔女「この女は『人質』よ……そして周囲を暗くした理由が分かるかしら」

吸血鬼#「……鏡面を失くすため……」

魔女「そう。貴方たちは、鏡があれば何でもそれを『魔鏡』にする……魔鏡から無限に吸血鬼が湧いてくる」


――鏡の定義は、光をよく反射すること。
  光のない世界では、貴方は増殖できない!
  鏡に映らずに死んでゆけ!


魔女が叫び、不可視の弾丸が飛び交う。
僅かな音と振動だけを頼りに回避する。

私は、これをよく知っていた。

『精神分解弾』だ――。
効果は単純、触れたら心が壊れて死ぬ……。

本来は『大袈裟な青白い光』を欠点としていたが、その光ごと、周囲の光を全て奪うことによりこの弱点をカバーしていた。


吸血鬼#「くっ……ねえ!! ひとつ聞いていいかしら!」

魔女「フフフ……何かしら」

吸血鬼#「何で私を襲ってるんだ!? 400年も一緒だったじゃないか!」

魔女「……400年も一緒だったからよ」

吸血鬼#「私は貴方を愛していた! お前もそれに応えてくれた400年だったはずッ!!」

魔女「だからこそ殺し合うのよッ!!」


「『魔女』に『吸血鬼』!! ……幻想は、この時代に必要とされていない過去の遺物!」
「だから……古い道具は買い替える必要があるの!!」


吸血鬼「私たちは『道具』ではないッ! これまでもッ! これからもッ!!」

125: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/05(土)19:09:55 ID:fi7OY7hQA

#精神的な死#


魔女「なら吸血鬼として朽ちてゆけッ」


私の額に『精神分解弾』が命中する。
バリバリバリ。雷鳴のような響き。

心が崩れてゆく――。





女「な、何が起きたんですかッ! 吸血鬼さん! 返事をしてください!」


私は魔女だ。
光がない状況でも、自分の放った魔法が現在どうなっているか分かる。
状態は『被弾』――。吸血鬼は確実に死んでいる。


女「貴方が殺したのね!? 400年来の付き合いなんでしょ!? この人でなし!」

魔女「人にあらず。魔女だから悪人なんでしょ?」

女「『魔女だから悪人』?」

魔女「『道具』と形容したほうがいいかしら」


魔女は、集団ヒステリーにより生まれた。
魔女狩りの歴史はあまりにも有名だ。

そして、魔女狩りの犠牲者は9割以上、『魔女』ではなく生身の人間だった。
『魔女狩りの対象』は、個人間の利害や恨み、個人の妄想によって告発されてきたからだ。

魔女が居なくなってしまえば、魔女狩りは出来ぬ。
よって、『伝承の発生源』として、魔女は生かさず殺さずの状態を保たれてきたのである。


「より大きな集団心理や教会に、人生のレールを強制される気持ちが分かる!?」
「それは吸血鬼も同じなのよ……こんなに辛いなら………」

「誰かが終わらせなきゃ、しょうがないじゃない!!」

126: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)08:15:03 ID:vLnOTY4Dl


#吸血鬼#吸血鬼#


腹部に、耐えがたい熱さを感じる。
抉られている。

――確認のために『漆黒の魔導書』による暗転を0.5秒だけ解除してしまったからだ。


吸血鬼「お前の負けだ。さあ、家に帰ろう」


再びの暗転。
だが状況は一変している。
周囲に10体の吸血鬼があり、人質の女も10mほど後方に引き離されていた。
……私の負けだ。私は、暗転を解除した。


吸血鬼「私が1人しか居ないと、いつから錯覚していた?」

吸血鬼「私が操っていたのは『鏡』ではなく『概念の境界線』だ……吸血鬼は、招かれざる部屋には入れないのさ」

吸血鬼「自分自身に、隣の世界の自分を重ねて入れた……『わたし』は最初から2人居たということッ!」


私は、ふと、先程吸血鬼が倒れていた場所を見る。


吸血鬼#「……」


彼女自身が死んでいた。
この吸血鬼は、目的のためなら自分をも殺せる人だ。

……生命に対する考え方の差。
それが私の敗因――。

127: 名無しさん@おーぷん 2014/07/06(日)08:42:28 ID:tRASSydib
レミリア様いいよね


ほすほす



映姫様最高(無関係)

128: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)08:58:13 ID:vLnOTY4Dl


#吸血鬼#魔女#


吸血鬼「ちょっとボタンを掛け違えただけなのよ……もうやめにしよう。いつもの日常に戻るだけ……」

魔女「違うのよ……ボタンを落としてしまった……もう後戻りできない」

吸血鬼「どういうこと?」

魔女「『ヴァンパイアハンター』のリーダーは、私よ」

吸血鬼「!!」

魔女「全ての『幻想』を殺す……最後に残るのは、私の屍だけ……」

魔女「私を殺しなさい! 結局、殺し合いしかないのよ!!」

吸血鬼「……分かった。それ以外に言うことは?」

魔女「貴方の『魔鏡』に、『アカシックレコードの断片』を保管してある」

吸血鬼「アカシックレコード?」

魔女「の、断片よ。貴方の人生で役に立つはず。それじゃあ……また来世で会いましょう」


私は、吸血鬼。
無謬なる力を持つもの。

私は、魔女の腹を引き裂いた。
それと同時に頭部を完全に破壊したのは――最小限の苦しみで絶命させようとしたからだ。

市民の通報を受けて、ニューヨーク市警が通報後20分で到着したのと、全てが終わったのは同時刻だった。
そこにあるのは10体ほどの死体と、鏡だけ――。

129: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)16:11:31 ID:vLnOTY4Dl

#そして……#
#道具No.X:幻想


吸血鬼「いろいろゴタゴタしたけど、私とメイドが貴方を客人として迎えるから」

女「……ありがとうございます」

吸血鬼「もう。本当に気にしなくていいのよ」

女「…………貴方は、人間が嫌いですか?」

吸血鬼「……何よ、急に……」

女「人間は、貴方のイメージを流用して、好き勝手に貴方を題材に創作しています」

女「勝手なイメージを押し付けられる毎日。儲けるのは一部の作家と、それにしがみつく一部の集団だけ」

女「作られた幻想に、実在する迫害。人間を嫌いになってもしょうがないと思います」

女「もう一度聞きます。……貴方は、人間が嫌いですか?」

吸血鬼「……私はね……」


「人間が大好き」

130: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)17:56:55 ID:vLnOTY4Dl


#顛末#


吸血鬼「結局、あの女は、私を刺してから2週間。最後の話を聞いてから7日目に去って行ったってワケ」

吸血鬼「メイドはあれの3年後、被吸血依存症で死んだ。客人の女は5年後に強盗に刺されて死ぬ」

ロボット「諸行無常でございますか」

吸血鬼「いい熟語ね。私、人間の儚さっていうのも気に入ってるから」

ロボット「……結局、アカシックレコードの断片というのは」

吸血鬼「それはね……」


吸血鬼。
女。
魔女。
3人の思考を全てインプットした、全自動日記だった。

……ところどころ、一人称がズレたことがあったでしょ?
あれは、アカシックレコードの記録を再編して貴方に伝えたからなのよ。


ロボット「では魔女は、貴方に何を託したかったのか……」

吸血鬼「そうね……あいつは、あいつ自身の『弱さ』を私に託したかったんじゃないかしら」

ロボット「弱さ」

吸血鬼「『思い出』とは、所詮幻想に過ぎない。けれど、それに縋り付くことでしか生きてゆけない」

ロボット「私にも心当たりがございます」

吸血鬼「……でしょ?」


さて。
概念すら失ったこの世界。
少々の思い出話を休止して――。


1人と1体の創世記が始まった。

END

131: ◆tcMEv3/XvI 2014/07/06(日)18:02:32 ID:vLnOTY4Dl

以上です。
わりと受けの悪い話を書いてしまいましたね……。

ところで、上の安価では「①吸血鬼と三途の川」が人気でしたが――。

書き溜めの重要性を痛感したので、また別にスレを建てて書きます。

それでは。

132: ◆CcfcxOpggI 2014/07/06(日)18:07:12 ID:vLnOTY4Dl
乗っ取りだと思われそうなので、もう一度こっちのトリで。

トリが変わった理由は、メモを紛失していたからです。

134: 名無しさん@おーぷん 2014/07/07(月)02:59:11 ID:HkZmANPmF
乙乙
スレたてした時はこっちの
リンクはってほしいな


吸血娘いじめ(1) (完全征服G!)